概要
「材料の枯渇」と「工房廃棄品」 ふたつの問題と向き合うために
京都精華大学 伝統産業イノベーションセンター特別ゼミ 工藝部では、学外の職人さんの工房を訪ねて、手仕事の「歴史」と「今」と「未来」を考えよう、という活動を軸にしています。そうした工房訪問を重ねるなかで、浮かび上がってきた「今」と「未来」の課題が、道具や材料の枯渇問題でした。
伝統的な手仕事を支える道具や材料もまた、専門の職人さんの手仕事によってつくられています。上質な木材は、植樹をして、数十年ものあいだ山全体のお世話をする職人さんがいるからこそ。竹も絹糸も漆も、みなそうして生産され、工芸品をつくる職人さんの手に渡って、「伝統工芸品」となって世に出ていきます。
その循環が、今、失われつつあります。
環境問題や雇用問題など、社会情勢の影響も大きく受けながら。
わたしたちは、この問題に向き合うため、2017年から行動をはじめました。
手仕事の世界は数十年、数百年といった時間軸で物事が動きます。
しかし、道具・材料の問題に関しては、今まさに、事業者さんの廃業や産地の消滅が続いています。
私たちが目指すのは、道具・材料の職人さんたちに対する直接的な支援です。
着目したのは、工芸の工房で出る「廃棄品」でした。
たとえば、木工職人さんの工房では、毎日大量の鉋くずが生まれます。かつては銭湯の方が着火用に引き取りに来ていたそうですが、今は「産業廃棄物」として有償で業者さんに引き取ってもらっているのが現状です。木工職人さんが仕事を頑張るほどに、鉋くずの処分コストがかさんでしまう構造があります。
一方で、工芸で用いられる木材には上質なものが多く、工夫次第では鉋くずであっても商品価値を持つ可能性があります。神社関係の木工品では定番のヒノキは香りが良く、鉋くずをメッシュに詰めるだけでも簡易の「ヒノキ風呂 入浴剤」になります。また、そもそも、熟練の技で薄く、真っ直ぐに挽かれた鉋くずはそれだけでも価値を持つはずです。
捨てるはずだったものが、知恵と工夫で売れるかも知れない。
その売り上げを、今、危機に瀕している道具・材料の支援に充てられないだろうか。
そんな思いを出発点に、「手仕事の循環をつくるプロジェクト」がはじまりました。