陶芸家 石黒宗麿の家は、八瀬の端っこにある。石黒さんは、よく縁側に腰を下ろし、庭を見ながら思索に耽っていたという。ここからどんな景色を見ていたのだろう。正面には比叡山の山並み、庭では妻のとうさんが菜園をし、犬たちが駆け回っている。季節ごとに梅や桜、柿、椿が色づき、鳥たちがさえずる。麓の街道に目を向けると、大八車を引く人々や柴を担いだ女性たちが行き交う。
石黒さんのスケッチブックには、そんな八瀬の景色が何枚も描かれている。けれど、その膨大なスケッチを見ていると、八瀬という土地の風土や風習を描きながらも、ここではないどこかの景色を描いているようにも思えてくる。というのも、スケッチの多くは景色を写生したものではなく、皿や壺に合わせた図案へと展開されているからだ。石黒さんは、山あいの八瀬での暮らしを描き留めることで、どこでもない世界を描き出そうとしたのかもしれない。
とはいえ、残されたスケッチを眺めているだけでは、どうして石黒さんがそれらの景色を描いたのかが分からない。そこで、学内外の作家や研究者に声を掛け、石黒さんが暮らした「八瀬陶窯」でしばらく時間を過ごすことにした。家屋や庭の掃除をしたり、縁側に座って地元の方から話を聞いていると、ふいにそのスケッチが描かれた背景が見えてくる。そうやって石黒さんとの対話を重ねていると、いま、ここから見える世界を描いてみたくなってきた。本展では、石黒さんのスケッチをはじめ、陶芸・建築・庭景・集古・玩具という5つのチームが描き出したスケッチたちをお見せしていく。
〈参加作家〉
陶芸チーム :木村隆(釉薬研究)、田中大輝(陶芸家)、中村裕太(美術家)
建築チーム:惠谷浩子(風景学)、諏佐遙也(模型製作)、本橋仁(建築史家)
庭景チーム:石川知海(御庭植治)、山本麻紀子(アーティスト)
集古チーム:菊地暁(民俗学)、松元悠(版画家・美術家)、麥生田兵吾(写真家)
玩具チーム:尾崎織女(日本玩具博物館学芸員)、軸原ヨウスケ(デザイナー・玩具工芸社)、長友真昭(玩具作家・玩具工芸社)、山名伸生(玩具蒐集家)
- 会期:2025.6.27-8.3
- 会場:京都精華大学ギャラリーTerra-S
- 開場時間:11:00~18:00
- 休場日:日曜日(但し、8/3(日)は開場)
- 入場料:無料
- 主催:京都精華大学
- 助成:公益財団法人三菱UFJ信託地域文化財団
- 協力:射水市新湊博物館、京都市左京区役所八瀬出張所、日本玩具博物館、路上観察学会40周年記念事業「路上観察よ いつまでも」
- 企画:京都精華大学伝統産業イノベーションセンター、京都精華大学ギャラリーTerra-S
- マンガ:谷本研
- テキスト:中村裕太
- デザイン:仲村健太郎(Studio Kentaro Nakamura)