Report

2019.2.21Thu

〔RENEW 2018〕フィールドワークレポート2

Text / YONEHARA Yuji

本記事は京都精華大学独自のカリキュラム「2018年度 国内ショートプログラム」にて、福井県・鯖江市における日本最大級の工芸イベントである〔RENEW 2018〕を3日間にわたってフィールドワークした学生が執筆しました。

フィールドワークのすべてをここで伝えることはできませんが、3日間で見聞きした膨大な情報から学生自身がもっとも関心を持った内容をまとめました。

学生たちが現場で感じた「空気感」がすこしでも伝わりましたらうれしくおもいます。

指導教員:伝統産業イノベーションセンター長 米原有二

 


 

鯖江の土地と伝統工芸の結びつき

岡田文〔芸術学部 洋画専攻 3回生〕

 

はじめに

今回、国内ショートプログラムへ参加するにあたり、私は「鯖江の土地と伝統工芸の結びつき」というテーマで調査をしました。

今もなお伝統産業・工芸との繋がりが強い土地としてそこにどのような光景があるのか、人々がどのように暮らしているかについて関心がありました。現地では町の特色や雰囲気に目を向けながら、気になった景色は写真に収めるとともに、現地の方々から地域に対する考え方についてお話を伺いました。

 

1鯖江の産業について

町中にはめがねをモチーフにした独特のオブジェクトがたくさん見られました。

市内にある「めがねミュージアム」には、眼鏡供養の小さなお社まで建っていました。

福井県鯖江市はとくに眼鏡と漆の特産地として有名です。眼鏡については、現在は国内の約9割、世界の約2割の眼鏡フレームが鯖江で生産されており、国外からの高い人気も得ています。また越前漆器は鯖江市の漆産業に代表される漆器です。旅館やレストランなどで使われるような合成樹脂の業務用漆器の生産はその8~9割が鯖江で行われています。そのほかにも、刃物、和紙、箪笥など数多くの伝統工芸品がいまも鯖江の土地で生まれています。

そして、今回のショートプログラムでも中心となった「RENEW」が、鯖江市を産地として強く活気づけており、地域外への産業、ものづくりへの関心を高めるはたらきかけをしています。

 

2現地の方々のお話

RENEWの期間中には様々な工房や企業をまわり、見学や体験をさせていただくとともに、鯖江の地域性についてお話を伺いました。多様な立場からの地域に対する目線と考え方を知ることができました。

 

◇ハヤカワ眼鏡 早川さん(眼鏡フレーム職人)のお話

「職人であった父の後継で眼鏡職人となった。父が鯖江で職の土台を作ってくれたおかげで職人を続けることができており、眼鏡の仕事があって良かった。工房の近くの川で鮎釣りをすることもある(眼鏡フレームの素材を持ち手に応用した手製の網を使うそうです)。何事も“住めば都”。」

 

◇眼鏡フレームの素材をつかったアクセサリーブランドを展開するKISSOの方のお話

「眼鏡フレームの素材を扱うことに関して、素材の工場は鯖江にしかなく、拠点が近いことが利点。鯖江で将来“手作り”を主張するか、企業による大量生産を強化していくかが見極めどころ。」

 

[移住者トークセッションより]

山次製紙所 嶋田朗子さん(和紙職人)、

漆琳堂 嶋田希望さん(漆職人)、

・山岸充さん(眼鏡の海外展開&WEB支援)、

・森一貴さん(RENEW事務局)のお話

 

嶋田希望さん「移住してきたとき、住める空き家を紹介してもらい手続きまでやってくれていた。地域の人たちに対する感謝の気持ちを抱いている」

嶋田朗子さん「地域の結びつきがとても強く、ご近所同士でいろんな話をする。都会ではできないようなつながりが生まれる」

山岸さん「伝統産業・工芸の取引や支援の仕事をしているが、そういう人は鯖江にはなかなかいない。ものづくりはできなくても、ITやWeb系のスキルを活かして産地に貢献することができる」

森さん「様々な暮らし方、働き方ができる土地なので選択肢は2択だけだと思わなくていい」

お話を伺うなかで、自然豊かな土地の特色と人との密接な関わり、そして人と人どうしの広く豊かなつながりが鯖江に根強く存在していることが伝わってきました。

 

3伝統を受け継ぐ鯖江の町

RENEWの拠点となっていたうるしの里会館は、地域内外からやってきた大勢の人で賑わっていました。〔画:岡田文〕

うるしの里会館内の喫茶「椀椀」のメニューは、河和田で生産された“山うに”を使用した料理が絶品です。

 

鯖江に滞在して感じたことは、歴史のある地域の伝統を守ろうとする活気に溢れているということでした。産業と自然の豊かさが共存しており、産地の景観、そして人と人とのつながりを大切にし尊重するような温かく柔らかいムードが町全体を包んでいました。

忙しない生活から離れ、穏やかな時間の流れる鯖江の空気に触れることができ、そこには現代の人々が知り、ときには実践していくことで暮らしが豊かになるような営みが存在しているように感じられました。産業や工芸、そして地域のなかでの生活のかたちについて改めて考える貴重な機会となりました。

 

(参考文献)

RENEW2018 HP、パンフレット http://renew-fukui.com

鯖江市HP https://www.city.sabae.fukui.jp/jiman/sangyo/megane/megane.html

越前漆器協同組合HP  https://www.echizen.or.jp